Archive for 6月, 2012

失いつつあるもの

 私の父親の時代までは、住まいには住むという機能だけでなく、客を迎え、もてなす機能がありました。その舞台となるのが、客間です。庭に面した一番日当たりのよい和室をつくり、客間にあてました。父親も自分の住まいを建てた時、そこに念願の床の間を作り、季節ごとに掛け軸を掛け替えたり、香炉を飾ったりしています。その客間に入ると、子どもながらに緊張したものでした。そんなに頻繁にお客様が来るわけではないので、もったいない気がしますが、

住まいの中で、本当に大切で、神聖で、特別な空間です。

 私の時代になると、マンションに住む人が多くなってきて、和室はまだ存在しますが、ここまで特別な感じはなくなってきました。機能重視で、冠婚葬祭も外部で行うようになりました。人々の暮らしが変わっていくと、住まいも少しずつ変化していきます。

 昔、あったものを懐かしみ、失いつつあるものを惜しむようになると、もう若くないと揶揄されます。しかし、簡単に年をとったと片付けてよいものでしょうか。日本人には「ハレ」「ケ」と言う考え方がありました。

「ハレ」は非日常であり、人生の節目、折り目です。「ケ」は日常です。昔は、この二つを生活の中で、歴然と分けていました。食事も衣類も分けていました。住まいから「ハレ」が遠ざかり、「ケ」ばかりになった時、住まいに緊張感が無くなったような気がします。緊張感はある程度必要であっても、いつもあっては困ります。緊張感とくつろぎのバランスの中で、家族は生活していっていたのです。客間と言う空間が失われつつあるということは、住まいに重厚さが失われつつあるような気がします。限られた敷地や専有面積に「ハレ」の場を設けるのは、不経済かもしれませんが、少し残念な気がします。

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